小学生の夢

そういえば、この連載は先月で1周年だった。

一体誰が読んでいるというのだ。担当編集者からも感想を言われなくなって久しい。よし、誰も見ていないだろうから今回は少女との交わりを赤裸々に書いてやろう。

妻は普通の仕事をしている。

何をもって普通の仕事というのかよく分からないが、少なくとも真夜中の2時に半裸でスクワットをしながら残虐ネタを考えたりする職業ではない。誰だそれは。僕だ。たまに好き好んで変態になりたい時って、あるよね。

それはともかく。妻が仕事帰りに、同じフロアで働く若奥さんとお茶をしてきた。

若奥さんといっても30代半ばで、小学6年生の一人娘がいるという事らしい。

そしてその娘さんの将来の夢は『漫画家』…。

いわゆる、りぼん系の漫画が好きで、りぼん作家に憧れているらしい。

以前何となくそんな話を聞いてイヤな予感がしていたのだが、妻が帰宅すると

「ちょっと見てもらいたい物が…」

と申し訳なさ気に手提げ袋を渡される。

中には、大量のイラストや漫画。

いかにも少女漫画らしい乙女チックなイラストから、可愛らしい動物系キャラクターを擁した4コマ漫画や。

「プロの漫画家に感想を言ってもらいたいんだって

 

だからなんであなたは俺の職業を中途半端にベラベラ喋るのか。

一応少女漫画誌で連載をしているが、漫画家じゃないし。

青年誌で4コマ漫画を作っているが、血液とか色んな汁が飛び交っているし。

しかし、受け取ってしまった物は仕方がない。

とりあえず義務として全てに目を通してみる。

…頑張って描いてるなぁ…テクニックなんて小学生に求めても仕方がないので、単純に熱意だけで考えると、非常に好感が持てる。

なんでも、小学校の「漫画クラブ」に所属していて、そこで活動する中で描き溜めた自信作を集めました、とのこと。

何度もいうが、量が半端じゃない。

これまでの人生(12年)の全てをぶつけてきた、という趣である。

これが私の全てです!私の自信です!!と。

うーむ…ヘタな事を言ったら何らかの事件に発展するのでは。

親御さん、とりわけお父さんは、娘さんの漫画家志望に断固反対らしく、むしろケチョンケチョンに貶して欲しいという意図があるらしかった。プロに駄目出しされれば諦めてくれるだろう、と。

それほどまでに娘さんの意思は固く、その夢で頭がいっぱいで困っている、という事情だった。

一人娘がそんな状態では心配だろうなぁ、そりゃ…。

しかしながら、なんで赤の他人の俺がわざわざいたいけな少女に恨まれる役をやらにゃならんのだ。迷惑だ!!

でも受け取ってしまった物は仕方がない…

色んな汁を撒き散らす作家として、誠実に考えてみる。

本気で漫画家になりたいのなら、漫画以外の事をたくさん頑張らないとダメだよ。

学校の勉強も、友達との遊びもたくさんして、小説も映画もたくさん観て。

その一つ一つの経験や、身をもって覚えた知識、自分の頭で思い浮かべた自分だけの世界が、自分にしか描けない漫画を生み出すんだよ。

ついでに親御さんにも。

目標をもって生きる事は、その対象が何であれ素晴らしい事です。

何かを成し遂げる為に懸命になる、その姿勢は自分で人生を切り開く力になります。

有無を言わさず留めれば、後悔と遺恨を残すでしょう。

但し、漫画家になるには漫画以外の知識や経験が人一倍必要で、それも含め、広い視野でアドバイスをして、応援してあげて下さい。

たくさんの経験を経た上で、別な道に進む事があればそれはそれでいいし、結果的に漫画家になりたいと決心したのなら、その想いは本物でしょうから応援してあげて欲しいです、と。

社会の底辺を這いつくばる無駄な汁しか生み出す事が出来ない臭い生き物が偉そうに何を言っているんだか…とその場で包丁を手に取り切腹したくなったが、その位しか言えないのだから仕方がない。

後日、その子から可愛い便箋にてお礼の手紙が来た。

プロの漫画家さんにアドバイスを貰えてとても嬉しかった、と。

もっともっと頑張ります、と。小学生らしい拙い字で、一生懸命書いていた。

お礼の描き下ろしイラストもたくさん添えて。

いい子だなぁ…。

どうか色々気付いて普通の職業に就きますように…。

少なくとも、誰も見ていないからと他人との出来事をこっそりネタにするようなイヤラシイ仕事じゃない仕事に就きますように。

その時丁度作業をしていた色んな液体が飛び散る4コマは、ちょっとだけ液量を減らしてみた。なんとなく。

[初稿・2006.06.05]

Author: 一條 マサヒデ