そんなキャラじゃない

人はいくつもの顔を持つ。

筆者は漫画業界で細々と暗躍しているダメ人間だが、何を隠そう(隠しちゃいないが)、二児の父親だったりする訳です。

毎年毎月、毎週毎日、多数の方々に経済状態を心配されながらも細々と暮らしている今日この頃です。

心配するなら炭水化物や動物性蛋白質などをくれ。

さて、私のDNAを受け継ぐ二匹の哺乳類は日中保育園に預かってもらっていて、一年に一度、保護者懇談会というものがある。

私は極端にシャイな社会不適合者なので、そういう会合は妻に任せっきりだった。

が、たまには社会と接点を持たなくては…と、初めて参加してみる。

教室内にズラッと円形に椅子を並べ、ズラッと保護者が座り。

先生が連絡事項や園内での生活などをズラズラ述べつつ、保護者一人一人順番に、相談や気になっている事を喋り、皆で知恵や経験を出し合って話し合う、といった段取り。

4〜5歳児ともなると次第に悩み事も少なくなり、どちらかと言えばこれから小学生に向けての心構えというかステップアップというか、何となく漠然とした不安事が殆どだ。 いや、ほんとに困ってる事ってなかなか言えなかったり言っても仕方がないので言わなかったりするかもしれない。

我が息子に関しては、「根性がなくて困ってます…(父親に似て)。困難な局面ですぐに諦めてしまうのです…(父親のように)」と告白。

いや、息子さんは得意な事に関しては凄い集中力ですよー、ブロック作りとか…と先生に励まされる。

凄い集中力でブロックを作り続ける子。

友達居なさそうだなぁ…(父親に似て)。

子供が自分の爪を噛んで困る、という保護者さんがいた。

お、自分と同じじゃないか。何を隠そう(隠しておいたほうがいい気もするが)、小学校高学年まで爪を食していた人間だ。暇さえあればコリコリコリコリ食していた。あと爪の横の皮。食べちゃうよね。自分が生きてる限り何度食べても再生するので環境にも優しいよね。最も身近な自家栽培。自分で自分を食べる行為って堪らないよね。

ところで、ここを読んでいる人がどんなにドン引きしようが僕は構わない。

それはともかく。自分の場合は、中学に上がり、自意識がほとばしるほど過剰になっていく過程で、とにかく「恥ずかしい」と感じるようになり、自ら断食した。習慣というのは恐ろしいもので、味も素っ気もない爪や皮でも、常食していた人間からすると中毒とも思えるほどの存在となる。ふと手を見れば据膳。グッとこらえる。でもちょっと噛むぐらいなら…いやいや…でも……。

教室で自分の手をジッと見つめ、何やら真剣に考えている中学一年生がいたら、断食中or手淫は一日何回に留めるべきかで悩んでいるかのどちらかだ。断言する。

その保護者さんの相談の行方を興味津々に見ていたが、誰も解決策を提示する気配が無い。

というわけで、自分の経験上人に言われてやめる事は絶対ないから、ここは具体的にお子さんに説明してみては、と提案。

一番の問題は、爪の間に入り込んでいるバイ菌や寄生虫の卵なので、まずその恐ろしさを教えましょう、と。

口だけで説明しても、4~5歳児は想像力がまだ追いつかないと思われるので、目黒にある寄生虫館に連れて行きましょう、と。

実際数年前に行った事がありますが、サナダムシのTシャツなどがあって、とてもフレンドリーな施設でしたよ。と。

私は2度と行きませんが。

そんなこんなで、気がつくといつの間にか保護者の中で一番喋ってしまう。

後日、保育園の送り迎えに行った妻が、「懇談会で旦那さん凄く喋ってた、的確で感心した」と他のママさんや先生方に何度も言われたらしく、夫はそんなキャラじゃないのに何事かと困惑。

シャイな社会不適合者のくせに何を喋ってきやがった、と問われる。

あえて「いや…別に…」と濁しておく事にする。

人はいくつもの顔を持つ。

家と保育園で二つの顔を持つ男。

……別にカッコよくない。

[初稿・2005.12.05]

Author: 一條 マサヒデ