防犯の皮

先日、東京は武蔵野市、吉祥寺へ足を運んだ。引き篭もりのくせに。

ふと足下を見ると路上喫煙禁止のマークがそこかしこにある。

23区内各地での路上喫煙禁止は認識していたが、まさかここまで勢力を伸ばしていたとは…。

ここ数年で急速に禁煙区域は拡大しているように感じる。何故こうも急に…手の平を返したように……。

その社会の豹変ぶりに少なからず疑問を抱いていたが、ふと思い出した。

私には思い当たる節がある。

中学2年生の頃。

『防犯ポスターコンクール』というものがあった。

万引きはダメだよ・シンナーは程々に・夜道はエロい事されるよ・などなど、悪の道へのきっかけとなりうるありとあらゆる事柄を撲滅する事を目的に、ポスターを描けと命じられるのだ。

県警などが主催する、青少年への啓蒙的な催しだったと記憶している。

私は未成年の喫煙を題材にポスターを描いた。

灰皿に置いたタバコから揺らめく煙を悪魔に見立て、喫煙者の身体を蝕もうと企んでいるかのように妖しく微笑んでいる。

そんな悪魔の企てなど知る由もなく興味本位でタバコに手を伸ばす、若者の手。

バックでは、無数のジグソーパズルが崩れ始め、その隙間からメッセージが覗く。

『打ち砕け!悪魔の囁き!!』

えーと…ちょっと着の身着のまま旅に出ても宜しいでしょうか……。

その頃の私は、美術と体育と給食だけは大好きな脳味噌ツルツルの人間だった。深く考えずただ闇雲に、真剣にポスター製作に打ち込んだ。

何度も何度も下絵を吟味し。

効果的で且つ緻密な配色を何度もテストし。

丁寧に慎重にポスターカラーで輪郭を取り。

ムラが一切出ないように均等に塗りつぶし。

おもむろにタバコに火をつけ、深く息を吸い込み。

………釈明すると、中学1年になり始めの頃から吸い始めたタバコは既に私の中枢を支配しておりまして、数時間空けば禁断症状が出るほどのヘビースモーカーだったのです。

何の釈明にもなってない。

いわば経験に基づくリアルなメッセージ、悪魔の囁きに屈した地獄からの雄叫び、ソープ嬢に説教するオッサン、そんな感じだ。

提出したそのポスターは、学校から防犯ポスターコンクール事務局へ渡り、県警へ渡り、優秀作品として賞状を計2枚授与される結果となった。

県内の全中学校の中から数名だけの受賞者に対し警察関連施設に於いて授与式があり、授業途中で抜け出す形で出席するよう命じられた。防犯の申し子、犯罪撲滅を声高に主張する青少年の代表として、義務教育よりも優先されるべきと判断された表彰を受けるわけだ。

知らせを聞いた瞬間、顔が蒼白になった。

バレたら補導されて新聞沙汰になって引っ越しを余儀なくされて貧乏になって一生後ろ指を差されて生きていくんだ!!

ああ…どうしよう…ソワソワ…おもむろにタバコに火をつける。

つけるなバカァァァ!!

授与式当日。

その日一日だけ禁煙をした。

あれから数年、禁煙区域は爆発的に拡大している。

あの時の不正に気付いた警察や禁煙推進組織が威信を懸けて、私を追いつめる為に近年の禁煙ブームを加速させているのだろうなぁと推測される。

防犯の皮を被った悪魔の下僕を盛大に表彰してしまったのだ。

狙いは私だ。私を精神的に抹殺しようとしているのだ。

殺れるものなら殺ってみろやー!!

と、タバコをバカバカ吸いながら死んだ魚のような目でキーボードを打ち付ける今日この頃。

なんだか違う種類の悪魔が私の頭に囁いているようです。

[初稿・2006.02.04]

Author: 一條 マサヒデ