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0802

title_image  ソントン

幼い頃、食事に対する躾けは厳しかった。
出されたものは美味かろうが不味かろうが米粒一つ残すべからず。出されないものは欲しがるべからず。粗食が一番。

そんな家庭で育った僕は、パンに『ソントンのピーナッツクリーム』を付けて食べるのが大好きだった。
紙の容器に紙の蓋、蓋を開けると銀紙状のもので密封されていて、開ける時いつもビヤッと中途半端に破けて人生全てが虚しく感じられたりする、あのパッケージの。そんなのは僕だけですか。そうですか。

ただし、子供の健康や躾け的な事を考えてか、食パンに厚塗りをすると母親に懇々と叱られた。
とにかく薄く。とことん薄く。親の顔を窺いながら、最小公倍数的な塗り作業…欲求不満極まりない。
子供心に、お金持ちになってソントンをいくら食べても文句の言われない男になろうと誓った。オツムの弱い子供だった。

それから十数年後。
一人暮らしを始めた。

思う存分、食パンがドシッと重みを持つほど塗りたくってやるぜ…俺はやるんだぜ…。
それが幼い頃からの夢であり、野望であり、復讐だった。

文字通り、甘さに身を委ねた蜜月の日々である。
それから毎朝ほぼ欠かすことなく、現在に至るまで厚塗りソントンパンを食している。時にはクリームだけを食べてしまう時も。反動とは恐ろしいものだ。
恐らく日本で、否、世界で一番ソントンピーナッツクリームを摂取している生き物はこの僕だ!!満天の星空に向かってよく叫んでいたものだ。
最低でも3日で1カップ摂取。年間に換算すると、およそ121個。
5年以上はその生活を続けているので、単純計算で605個は食べている計算となる。

親に叱られる事はなくなったが、妻に心配されるようになった。心配というより、正直、気味悪がられている。あなたが理解出来ない…ハッキリとそう言われた。

容器の側面に記載されたお客様相談室に相談してみた。
筆者「3日に1カップ、ピーナッツクリームを食べ尽くす生活をこれからも続けて良いものでしょうか」

お客様相談室「それでは、担当の者にご質問内容を伝えて、そちらにご連絡させますので、お名前とご連絡先を…」
何故こんなことで赤裸々に個人情報をばらまいているのだ僕は…と思いつつ正直に伝え、待つ事数時間。妙に庶民的で親しみ深いボイスのおばさんからコール。担当者らしい。

「健康な方なら特に問題はないです。」
「食事制限などをしている人は、お医者さんに相談してみてください」
「カロリーだけ気をつけて頂ければ、ピーナッツは脳の活性化にも良いですし」
「ただ、今の時代、パソコンなどで目を酷使する事が多いので、時折ブルーベリージャムを合間に挟んで食べるのはいかがでしょう」
「ブルーベリーは目にイイですから」
「ヨーグルトに混ぜて食べると、整腸効果もありますし」
「紅茶に混ぜて飲むのもいいかもしれませんね。ブルーベリージャム」

いつの間にか、ブルーベリージャムを如何に美味しく食べるか、陽気なおばちゃんと和気あいあいと喋っていた。いかんいかん。
結論としては、問題無し!とのこと。

お墨付きを頂いた事で僕のソントン狂は確固たるものとなってしまった。
そして相変わらず妻に気持ち悪がられている。
ソントンと私とどっちを取るのか、と迫られたら…。答えを出せる自信は正直言ってない。

僕の躾けは失敗です。母さん。
 
 

[初稿・2005.08.02]