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0605

title_image  名刺

名刺を差し出されることがよくある。引き篭もりのくせに。
そういう時は普通、社交辞令として自分の名刺を返すのが礼儀だが、決まって申し訳ない表情を浮かべながら、否応なく卑屈な気持ちを抱きつつ、名刺不所持を表明しなければならない。やな習慣だ。なんかもう、個人的には首筋にバーコードかなんかを焼き付けられ社会的に管理してもらったほうが好都合だ。

フリーランスたるもの、ハイエナの如く仕事にありつく為に名刺の一つや二つ作ればいいじゃないか。そう思うかも知れない。実際そう思って作ろうと決意した時もあった。しかしながら、私の場合はまず肩書きでつまずいてしまう。
『漫画家』…漫画家じゃないしなぁ…絵描くの苦手だしなぁ…『漫画原作者』…そう名乗れるほど実績も覚悟もない…『ギャグ作家』…そんなふざけた名刺持っていたくない…。

基本に戻ってみる。名刺とは何か。一つの役割として、仕事の繋がりを持つ為の道具だ。自分はこういう人間です、という自己アピールを端的に効果的に示すアイテム。逆に言えば、こんなヤツと仕事はしたくない、と思われるような名刺は失格だ。例えば、

名字以外、情報がない
●鉛筆書き(書き直しの跡が多数)
●伏せ字だらけ
●厚みが5cmほどある
●プラスチック素材に、水性ペン書き
●切手サイズ
●B2サイズ
●ベトベトしてる
●ホカホカしてる
●油取り紙で出来てる
●本革で出来てる
●ビッシリと毛が生えてる
●うろこで覆われている
●部屋の見取り図付き
●生理予定日が書いてある
●書体が一文字一文字全部違う
●金を取る
●投げつけてくる
●生まれた頃からの年表付き
●戦国時代からの家系図付き
●旧姓が5個ぐらいある
●あだ名明記
●前科が明記
●好きな体位など明記
●スクラッチカード方式
●何らかの粉がまんべんなくついている(舐めると甘い)
●翌日返さなきゃいけない
●10枚セットでやっと情報が揃う
●くさい
●魚くさい
●語尾に全部(笑)が付いている
●裏に見た事も無いような文字で呪文が書いてある
●噛った跡がある
●シリアルナンバー付きで渡された物は「000000003」番
●浪人生
●ハムで出来てる

………というようなどうでもいい事を家の中でただ黙々と考えるのが私の職業なのですが、これは何という職種なのでしょう。
やはりただの引き篭もりなのでしょうか。
 


 

[初稿・2006.06.05]

0605

title_image  小学生の夢

そういえば、この連載は先月で1周年だった。
一体誰が読んでいるというのだ。担当編集者からも感想を言われなくなって久しい。よし、誰も見ていないだろうから今回は少女との交わりを赤裸々に書いてやろう。
 

妻は普通の仕事をしている。
何をもって普通の仕事というのかよく分からないが、少なくとも真夜中の2時に半裸でスクワットをしながら残虐ネタを考えたりする職業ではない。誰だそれは。僕だ。たまに好き好んで変態になりたい時って、あるよね。

それはともかく。妻が仕事帰りに、同じフロアで働く若奥さんとお茶をしてきた。
若奥さんといっても30代半ばで、小学6年生の一人娘がいるという事らしい。
そしてその娘さんの将来の夢は『漫画家』…。
いわゆる、りぼん系の漫画が好きで、りぼん作家に憧れているらしい。

以前何となくそんな話を聞いてイヤな予感がしていたのだが、妻が帰宅すると
「ちょっと見てもらいたい物が…」
と申し訳なさ気に手提げ袋を渡される。
中には、大量のイラストや漫画。
いかにも少女漫画らしい乙女チックなイラストから、可愛らしい動物系キャラクターを擁した4コマ漫画や。

「プロの漫画家に感想を言ってもらいたいんだって

だからなんであなたは俺の職業を中途半端にベラベラ喋るのか。
一応少女漫画誌で連載をしているが、漫画家じゃないし。
青年誌で4コマ漫画を作っているが、血液とか色んな汁が飛び交っているし。

しかし、受け取ってしまった物は仕方がない。
とりあえず義務として全てに目を通してみる。
…頑張って描いてるなぁ…テクニックなんて小学生に求めても仕方がないので、単純に熱意だけで考えると、非常に好感が持てる。
なんでも、小学校の「漫画クラブ」に所属していて、そこで活動する中で描き溜めた自信作を集めました、とのこと。
何度もいうが、量が半端じゃない。
これまでの人生(12年)の全てをぶつけてきた、という趣である。
これが私の全てです!私の自信です!!と。
うーむ…ヘタな事を言ったら何らかの事件に発展するのでは。

親御さん、とりわけお父さんは、娘さんの漫画家志望に断固反対らしく、むしろケチョンケチョンに貶して欲しいという意図があるらしかった。プロに駄目出しされれば諦めてくれるだろう、と。
それほどまでに娘さんの意思は固く、その夢で頭がいっぱいで困っている、という事情だった。
一人娘がそんな状態では心配だろうなぁ、そりゃ…。

しかしながら、なんで赤の他人の俺がわざわざいたいけな少女に恨まれる役をやらにゃならんのだ。迷惑だ!!

でも受け取ってしまった物は仕方がない…
色んな汁を撒き散らす作家として、誠実に考えてみる。

本気で漫画家になりたいのなら、漫画以外の事をたくさん頑張らないとダメだよ。
学校の勉強も、友達との遊びもたくさんして、小説も映画もたくさん観て。
その一つ一つの経験や、身をもって覚えた知識、自分の頭で思い浮かべた自分だけの世界が、自分にしか描けない漫画を生み出すんだよ。
ついでに親御さんにも。
目標をもって生きる事は、その対象が何であれ素晴らしい事です。
何かを成し遂げる為に懸命になる、その姿勢は自分で人生を切り開く力になります。
有無を言わさず留めれば、後悔と遺恨を残すでしょう。
但し、漫画家になるには漫画以外の知識や経験が人一倍必要で、それも含め、広い視野でアドバイスをして、応援してあげて下さい。
たくさんの経験を経た上で、別な道に進む事があればそれはそれでいいし、結果的に漫画家になりたいと決心したのなら、その想いは本物でしょうから応援してあげて欲しいです、と。

社会の底辺を這いつくばる無駄な汁しか生み出す事が出来ない臭い生き物が偉そうに何を言っているんだか…とその場で包丁を手に取り切腹したくなったが、その位しか言えないのだから仕方がない。

後日、その子から可愛い便箋にてお礼の手紙が来た。
プロの漫画家さんにアドバイスを貰えてとても嬉しかった、と。
もっともっと頑張ります、と。小学生らしい拙い字で、一生懸命書いていた。
お礼の描き下ろしイラストもたくさん添えて。
いい子だなぁ…。

どうか色々気付いて普通の職業に就きますように…。
少なくとも、誰も見ていないからと他人との出来事をこっそりネタにするようなイヤラシイ仕事じゃない仕事に就きますように。

その時丁度作業をしていた色んな液体が飛び散る4コマは、ちょっとだけ液量を減らしてみた。なんとなく。

[初稿・2006.06.05]


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